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高松高等裁判所 平成6年(ネ)361号 判決

控訴人

加美幸治

被控訴人(原告)

仁木和子

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金二六九二万一五八七円及びこれに対する平成二年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一・二審を通じて五分し、その三を控訴人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。

三  この判決の第一項1は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

第二事案の概要

本件は、自動車と衝突事故を起こして負傷した自転車の運転者が自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  (事故の発生)

次の交通事故が発生した(当事者間に争いがない。)。

1  日時 平成二年三月二七日午後六時二〇分ころ

2  場所 徳島県阿南市長生町上荒井楠ノ前一〇番地の八先県道上

3  加害車 普通乗用自動車(徳島五七す二八七〇)

運転者 控訴人

4  被害車 足踏式自転車

運転者 被控訴人(昭和一五年四月一八日生)

5  態様 東方から西方に横断のため路外から進入した被害車に北進する加害車が衝突した。

二  (傷害の治療経過)

1  被控訴人は、本件事故により、脳挫傷、脳室内出血、硬膜下水腫、左上腕骨・第一中手骨・下随骨開放性の各骨折の傷害を負い、事故当日の平成二年三月二七日から平成三年七月一三日まで(四七四日間)阿南共栄病院に入院して治療を受け(争いがない。)、自発性欠如、痴呆、言語障害、右半身不全麻痺の障害を残して、同日症状が固定した(甲二の1・2)。本件後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表五級二号に該当するとの認定を受けた(争いがない。)。

2  被控訴人は、同月一五日から平成五年一二月一八日まで(八八八日間)徳島ロイヤル病院に入院して、リハビリテーシヨンを受けた(甲二の1・2、二六~八七、証人仁木恒之)。

三  (責任原因)

控訴人は、加害車を保有し、自己のために運行の用に供していた(争いがない。)から、自賠法三条の損害賠償責任がある。

四  (争点)

控訴人は、損害額を争うほか、被控訴人には路外から加害車の直前に進入した過失があつたから、五割の過失相殺をすべきであると主張する。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  損害額

1  治療費

(一) 阿南共栄病院分

(1) 控訴人支払分二三三万九九四三円(争いがない。)

(2) 被控訴人支払分四万〇三六三円(甲二五)

(二) 徳島ロイヤル病院分三三五万三七四九円(甲二六~八七)

これは、症状固定後の治療費であるが、証拠(証人仁木恒之)によれば、被控訴人は、同病院にリハビリテーシヨンのために入院したが、そのリハビリが症状の悪化を防ぐのに役立つたことが認められるので、右費用の支出は相当と認められる。

2  付添看護料三六二万六一四六円

被控訴人は、阿南共栄病院に四七四日間入院中、付添看護を要し、右金額の負担を余儀なくされた(争いがない。)。

3  入院雑費一一〇万一六〇〇円

入院雑費は、阿南共栄病院では一日一二〇〇円、徳島ロイヤル病院では一日六〇〇円と認めるのが相当であるから、一一〇万一六〇〇円となる。

1200円×474日+600円×888日=110万1600円

4  休業損害

証拠(甲一九、証人仁木恒之)によれば、被控訴人は、本件事故現場の道路東側の店舗で畳製造業を営む夫の仁木恒之の仕事を手伝うほか、家事一切を切り盛りしていたが、本件事故により阿南共栄病院に入院を余儀なくされ、右手伝いや家事に従事できなかつたことが認められる。そこで、平成二年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計五〇~五四歳の年収額二九六万〇八〇〇円を基礎に、被控訴人の休業損害を算定すると(一円未満切捨て。以下の計算につき同じ。)、三八四万四九八四円となる。

296万0800円÷365日×474日=384万4984円

5  後遺障害による逸失利益

本件後遺障害については、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表五級二号に該当するとの認定がなされたことは、前記のとおりである。しかし、証拠(甲二の1、証人仁木恒之)によれば、被控訴人は、本件後遺障害により、精神に著しい障害を残し、終身労務や家事に従事することができなくなつていることが認められるから、労働能力を一〇〇パーセント喪失したと認めるのが相当である。ところで、平成二年簡易生命表に照らして、被控訴人は、症状固定日(五一歳)から六七歳に達するまでの間、就労可能であつたと考えられるから、前記4の年収額二九六万〇八〇〇円を基礎として、ホフマン式計算方法により中間利息を控除して一六年間の逸失利益の本件事故時の現価を控え目に算定すると、三〇二四万四五七二円となる。

296万0800円×(12.076-1.861)=3024万4572円

6  慰謝料一五四〇万円

以上認定の諸般の事情を考慮すると、慰謝料は、傷害分三四〇万円、後遺障害分一二〇〇万円が相当である。

二  過失相殺

1  証拠(甲四、六、八~一二、一八、二〇、二一、二三、控訴人本人)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、ほぼ南北に通ずる幅員九・三メートルの県道(阿南那賀川線)に、ほぼ東西に通ずる幅員四・四メートルの阿南市農協長生支所所有の公衆用道路が西方からT字型に交わる信号機の設置されていない交差点北方の県道北行車線である。本件事故当時、周囲はまだ明るく、前照灯なしで状況を確認することができた。

(二) 控訴人は、本件事故現場付近の速度が毎時五〇キロメートルに制限されていたのに、時速約七〇ないし八〇キロメートルで加害車を運転して北進し、進路前方に対する注視を怠つていたため、道路東側から西側に横断する被害車を至近距離に迫つて初めて気づき、急制動の措置を講じたが間に合わず、加害車を被害車に衝突させ、被控訴人を路上に転倒させた。

(三) 被控訴人は、足踏式自転車の被害車に乗り、通行車両の切れ目に本件事故現場道路を横断しようとしたものである。

2  右事実によれば、本件事故の発生につき、控訴人には、前方注視義務違反、著しい速度違反の過失があり、他方、被控訴人には、道路横断時の安全確認不十分の過失があるといわなければならない。

3  双方の過失を対比すると、被控訴人の損害額から二割五分を減額するのが相当である。

したがつて、控訴人が被控訴人に対して賠償すべき損害額は、四四九六万三五一七円となる。

三  損害のてん補

被控訴人は、〈1〉自賠責保険から一三八三万円、〈2〉控訴人から計六六一万一九三〇円の支払を受けた(争いがない。)。これらの金員を控除すると、控訴人が被控訴人に賠償すべき損害額は、二四五二万一五八七円となる。

四  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すると、控訴人が賠償すべき弁護士費用は、二四〇万円とするのが相当である。

第四結論

以上によると、被控訴人の請求は、控訴人に対し、金二六九二万一五八七円及びこれに対する本件事故の日である平成二年三月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

したがつて、控訴人の本件控訴は一部理由があることとなるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊貢 豊永多門 豊澤佳弘)

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